主任児童委員

『主任児童委員から見た子どもたち』

(2007年5月20日)

ミニ四者協

『子どもたちを取り巻く環境は日に日に悪化し、その対策として学校・地域・家庭の連携がこれまで以上に必要とされている。』、『特に家庭における教育力の低下は著しい。』などといった声を良く耳にします。このように漠然とした表現ではありますが、自分では何となく、その対策が分かっているような錯覚に陥ります。では具体的にどのようにすれば、このような問題の解決に繋がるのかと考えた時に、それほどの経験や自信もありませんし、果たして自分たちの方向性が間違っていないか考えさせられてしまうことが多々あります。実際に主任児童委員として事例に係わると、より一層悩んでしまうことがあります。しかし、児童問題について具体的にこれといった対策が施されている事例は一握りで、明るみに出ない問題も多く、報道などでまさかといった事件を知って、はじめて身近な問題として考えさせられることも多いのではないでしょうか。

文京区の主任児童委員は全部で9名おり、主に子育てに関する支援や相談といった活動をしています。担当地域は富坂・大塚・本富士・駒込の4地区に別れています。残念なことは、子育て支援の活動よりも、年々相談に対処するための活動が増えているということです。そもそも児童問題というものは解決することが困難なケースがほとんどで、これ以上問題が悪化しないように、子どもや家庭について『見守り』をすることぐらいが、我々の出来る範囲だからだと思います。問題解決の根本には、当事者の自覚と解決への意欲が必要なのですが、価値観の多様化とでもいうのでしょうか、なかなか意思の疎通がままならず、前に進めないといった事例も多いように思います。それとは裏腹に次々と問題が起こっていくのですから、児童問題の減少を望むこと自体に無理があるといった時代なのかもしれません。そのような中、我々が活動する際は単独に行動するのではなく、他の主任児童委員や地域担当の民生児童委員と協力し合い、専門家である児童相談センターや子ども家庭支援センター、その他関係機関と連携を図って情報の交換をしています。そして、この連携と情報交換こそが子どもを守るための根源となっていることは確かであり、これからますます必要となってくることでしょう。特に夜などは行政の勤務時間外ですから、情報収集は地元の委員の方の役割でもあります。もちろん近隣に風評が出ないよう、また当事者との信頼関係を築くため、活動内容については守秘義務を持って対処しております。

 『地域で子どもを育てる』といった昔ながらの古き良き時代は、ごく当たり前のように役割分担ができ、地域が一体となって子どもたちを見守っていました。現在その形は変化しているものの、根底に内在するその意識は、まさしく係わりのある皆さん方が持ち続けており、いまだに良き伝統が残っているのだと実感しています。実際に古き良き時代を取り戻そうと、町のご意見番になって声掛けし、注意を促すなど、地域ぐるみで子どもたちの健全育成をしようと活動しているところもあるそうです。

私たちが活動を通して感じることは、問題の起きる家庭の多くに、いくつかの類似した原因のパターンがあるということです。昨今、家庭教育の低下が取りざたされていますが、当たり前のことを当たり前のように出来ないことが、大きな問題へと進展しているように思います。実際のケースを通して、『何故こんなことが出来ないのか不思議だなぁ』と感じることも、当事者にとっては困難だと思えることが多く、そのことがプレッシャーやストレスに繋がってしまう恐れもあるので、接し方にも特に注意が必要です。我々にとって極一般的だと思っている価値観すらすれ違いを生じるのですから、相手に納得させようなどということは非常に難しいことだと思います。ましてや当事者にもプライドがありますから、それを傷つけるようなアドバイスは当然受け入れられません。

そして、不幸にもこのような親を持ち、非日常的ともいえる養育環境の中で育った子どもたちは、一般的な躾を受ける機会も少なく、決して良い環境で育っているとはいえないように感じます。子どもは親を選べないのですから、まさに被害者となり兼ねません。親としての自覚や子育ての大切さを改めて再認識させられます。ただし、これは一部の家庭についてのことで、幸い東京都の中でもとりわけ文京区の事例は少ない方です。世間一般的に見て通常と思われる家庭環境で育った子どもたちは、素直で明るい性格を持ち合わせています。また、地域との交流もあって、ますますよい方向に成長してくれます。養育環境が如何に大事であるかということを、子どもたちが示してくれています。

ところが、素直に見える子どもたちではありますが、時として感情表現の欠如やコミュニケーション能力の不足が招く悲惨な事件が起こる可能性も秘めています。いわゆる『切れる子ども』という表現が使われています。特に小学校の高学年から中学生ぐらいになると感情が上手く表現出来ず、言葉よりも先に手が出てしまうといったケースも出てきます。家庭において日ごろ交わしている家族のコミュニケーションは、子どもにとって非常に大事な訓練で、地域や学校に出た際の上手な会話能力や素直な感情表現に繋がってきます。挨拶ひとつを例に挙げても、元気にできる子、はずかしそうにする子など様々ですが、挨拶すら出来ない子どもがいることも事実です。また忙しい世の中ですから夕食は無理としても、家族揃って朝食を食べるということが家庭教育(食育)にとって重要であり、文科省やPTAの推薦もあって、食育の必要性が全国的に広がっています。また挨拶や食事も去ることながら、子どもを学校に通わせることすら出来ず、普段の生活リズムが狂ってしまう、昼夜逆転の子どもも多くなってきているようです。これは非常に困った問題であり、家庭環境そのものに解決の糸口が見え隠れしていることが多いように思われます。ただ、長年培ってきた家庭環境はそう簡単には変えられないことも事実であり、それを行うためのエネルギーは想像を絶するものがあるように思われます。家庭に問題を抱えた子どもたちを見ていると、その度に『当たり前のことを当たり前にできることの幸せ』というものを再認識してしまいます。子どもたちは生まれながらにして悪い子はいないのですから・・・・・。

私たちが地域の子どもたちと最初に出会う機会は、本郷および小石川の保健センターで行われる4ヶ月検診です。そこで子育て支援の一環として主任児童委員の役割や活動内容の紹介、子育てガイドを基に、子育てに関する地域の関連施設の紹介などを行っています。また、子育てサロンの説明などを行い、子育て中の親の相談相手になって、孤立や悩みの対策に少しでもお手伝いできるよう紹介しています。核家族の影響で子育てに悩み、周囲との接し方があまりわからず、孤立感を持っているお母さんが増えているからです。そして、この生後4ヶ月の幼い子どもたちが、与えられた家庭環境の中ですくすくと育ち、知らず知らずのうちにその影響を受けて行きます。その後は保育園や幼稚園、そして小・中学校へと進学していきます。我々は子どもたちが成長する姿を、地域の一員として見届けていきたいと思います。当たり前のことがしっかりと出来ているか、式典や運動会などは良い機会なので、なるべく足を運ぶよう心掛けます。決して多くを望んでいるわけではありません。『普通に生活できることの幸せ』が全ての子どもに与えられることを信じつつ、主任児童委員の活動をしていきたいと思います。われわれにエネルギーを与えてくれる子どもたちのためにも、頑張ろうという気が湧いてきます。